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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2222号 判決 1979年4月24日

控訴人

阪神興業株式会社

右訴訟代理人

井波理朗

岡本栄

被控訴人

ボンタイル株式会社

右訴訟代理人

久保田穰

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

<前略>

被控訴人方法が本件特許権の技術的範囲に属するかどうかについての当裁判所の判断は、次のとおりである。

一本件発明の構成要件(C)の「点模様の頂部を平坦にカツトする」方法には、被控訴人方法の工程(C)'の「点模様が生乾きの状態でその頂部をローラーで押しつぶして平坦にする」方法は、次のとおり、特許報の客観的解釈および出願当時の技術水準からみて、含まれないと解すべきである。

(一)  <証拠>によれば、本件特許公報には、右構成要件(C)に関する説明として次のとおり記載されていることが認められる。

1 「ドクターナイフ乃至サンダー8で点模様7の高い頂部を平坦にカツト9する。」(一頁右欄一六行から一八行)

2 「この点模様7の頂部を平坦にカツト9し、」(一頁右欄三三、三四行)

3 「上記点模様のカツト平坦面にのみ異色のアクリルウレタンラツカーでコーテングして仕上げた……」(二頁右欄七行から九行)

ところで、「カツト」の通常の意味は、「切り取る」ことであり、「押しつぶす」という意味まで含まないことは自明である。しかも、右公報の記載によれば、点模様の頂部を平坦にする具体的手段は、ドクターナイフないしサンダーであつて、いずれも点模様7の頂部を切り取り、または削り取る道具であり(ドクターナイフは押しつぶすこともできるが、ローラーほど適切かつ能率的とはいえない。)、ローラーにより押しつぶす手段は全く記載されていない。

(二) <証拠>を総合すると、本件特許出願当時の技術水準として、エポキシ樹脂系素材による凹凸面を平坦にする方法としては、エポキシ樹脂の高度の粘着性のために、ローラー押えは困難ないし不適当視されていたが、その後、昭和四七年一月ごろ、無機の素材とエポキシ樹脂の適度な配合により、ローラー押えを可能とし、これにより工期を短縮する工法が開発され、また、昭和四七年一一月一四日には、右ローラー押えに適する特殊なローラーの考案が実用新案として出願されたことが認められる。ところが、本件特許公報には、このような技術課題およびいかにしてそれを解決し、ローラー押えを可能にしたか等については一切記載されていないことが認められる。控訴人は、素材硬化の中間段階ではローラー押えが可能であり、特に本件発明において素材に石粉を混入することによりそれが可能である旨主張するが(第二、一、(一)、2、(3))、そうとすれば、前記当時の技術水準下で公報にそのような技術事項の記載がないことは不可解である。

要するに本件公報の記載は、そのまま、素材が切削に適する程度に乾燥(硬化)するのを待つて前記方法で切削すると理解するのが自然な読み方というべきである。

右(一)(二)の認定からすれば、本件特許における構成要件(C)について、出願人は、当然ローラー押えによる方法まで特許請求をしたものと解することはできない。<以下、省略>

(小堀勇 小笠原昭夫 石井彦壽)

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